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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)648号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人平野武一の弁護人遊田多聞、同安西光雄の上告趣意第一点について。 論旨は違憲をいう点もあるが、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(原判決の確定したところによれば、被告人両名は強盗を共謀して判示第一の日時(午前二時三〇分頃)、判示場所に押入り、被害者小西源一郎に、所携のナイフを突きつけ、「お前は高利貸をしているそうだが、これだぞ」と申し向け、或いは「これでもか、これでもか」といいながら、二、三回同人の頚や頤のあたりにナイフを突き出して脅迫し、その反抗を抑圧して金員を強奪しようとしたが、同人の抵抗にあいその目的を遂げることができなかったが、右二、三回突き出したナイフの刃が同人の頚及び頤に触れてかすったため右各部位にそれぞれ長さ約六糎の擦過傷を負わせたものであるというにある。されば、被告人が右のごとく被害者に向ってナイフを突き出す所為はそれ自体人の身体に対する不法な有形力を行使したものとして暴行を加えたものというべく、従って右暴行により傷害の結果を生ぜしめた所為につき刑法二四〇条を適用した原判決は正当であり、論旨(一)は原判示にそわない事実を前提として法令違反をいうに帰し採用の限りでない。次に本件被告人両名は深夜、覆面の上被害者方に押入り所携のナイフを突き出し金員を要求したというのであるから、被告人の所為は、強盗罪における暴行、脅迫にあたること明らかで、原判決には所論(二)のような経験則違背は存しない。また、所論司法警察員作成の小西源一郎の供述調書を通読すれば、強盗の被害者たる同人は賊から反抗を抑圧するに足る暴行、脅迫を受けたけれども、極力抵抗したため賊が退散した趣旨が一貫して認められるから、原判決が不可分の供述の一部を供述全体の趣旨と異なる意味において証拠としたとする所論(二)の採証違反の主張も採るをえない。また、本件の訴因は、暴行および脅迫の手段により傷害を生ぜしめた強盗傷人の訴因であり、原判決また右訴因どおりの事実を認定したものであって、訴因変更の要否を論ずるの余地はないから、論旨(三)も採るをえない。)

同第二点、第四点は単なる法令違反、同第三点は事実誤認、同第五点は量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人上岡谷兼蔵の弁護人佐藤邦雄の上告趣意について。

論旨第一点は事実誤認、同第二点は単なる訴訟法違反、同第三点は量刑不当の主張であって、いずれも同四〇五条の上告理由に当らない。

被告人平野武一、同上岡谷兼蔵の各上告趣意について。

いずれも、事実誤認、量刑不当の主張を出でないもので、同四〇五条の上告理由に当らない。

よって、刑訴四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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